藍より青く

歌い手のそらるさんにハマったバンプオタのブログ。@momomomoai3

バンプオタ14年目にしてとある歌い手さんにハマった話

すべてのはじまり

事の始まりは、2016年2月11日「BUMP OF CHICKEN結成20周年SpecialLive」in幕張メッセのチケットを取れなかったことだ。バンプのことは15歳から大好きで、人生の指針としてきたバンドだ。私は1987年3月生まれなので、2016年の時点では14年ファンをしてきていたわけだ。

その14年の間、勿論好きな思いがいつだって同じ量だったわけじゃない。バンプの変化がどうというより、自分の問題で、20代後半に差し掛かる頃には、少しずつ10代の頃ほどのような、身を焦がしバンプの挙動次第では自分の生命にまで支障が及ぶのではないかというような執着は減ってきていたように思う。彼らが歌う生も死も未だに眩しいけれど、「ガラスのブルース」を15歳の冬に初めて聴いて、“私もうたを唄って死んでいく「ガラスの眼をした猫」のように生きたい”と震えるほどに望んだ感覚は生活の中で少しずつ摩耗していった。

私の中でバンプが思い出になったことはなくて、今でも新曲を緊張しながら待ち、震えながら聴き、ライブの前は「今の私はバンプと向き合っても恥じることのない姿をしているか」と自問自答してはいる。元ファンではなくて、今もまぎれもなくバンプファンなのだけれど、でも私は20周年記念ライブを見られなかった。

20周年記念ライブでは、キャリアのわりにはあまりライブをする回数が多くはないバンプがライブで初めて披露した曲や、ずっと聴きたかったあまりやらない曲(66号線)が演奏されたことを知って特別な時間に居合わせることが出来なかったのだという実感が日々強くなっていった。結局20周年のライブに行けなかったというのは「何が何でも行かないと死んでしまう」という気持ちでチケット取りをしなかったということなのかな、とも思って、非常に落ち込んでいた。

きっかけは「名前」

バンプのことを考えるのをやめよう、と思って自暴自棄かつ適当にネットサーフィンしていたところ某イラストコミュニケーションサイトの新着欄で見つけたひらがなの名前、それが彼だった。同じくひらがなの名前の男のひととセットのように扱われていた。歌い手、というタグが付いていた。歌い手という存在は知っていた。ニコニコ動画で主にボーカロイド曲を「歌ってみ」るひとのことだ。ガゼルさんが歌う「メルト」が好きだった。大学時代に友達の家で「恋と戦争」の動画を見た覚えがある。逆に言うとボカロPはryoさん、歌い手さんはガゼルさんしか知らない、2010年以降は全く見たことがなく偏見もなければ知識もゼロ、というまっさらな状態だった。

「え、歌い手さんにイラストとかって描けるもの?声からイメージして?確固たるキャラクター性みたいなものってあるの?歌だけの存在に対してイラストを描きたいと思う位熱烈なファンってつくものなの?」

猛烈なクエッションマーク。クエッションマークを抱えながらも私がその存在に興味を持ったのは、名前が非常に魅力的だったからだ。一言で言えば「変綺麗」。イラストを見てみれば、カッコいい扱いをされている感じの男性だということが分かったけれど、名前だけとってみると女の子のHNだとしてもおかしくない感じ。意味があるようでその意味より響きの方が優先されている感じの名前。気になる。

今までずっと本名で活動するひとたちが好きだったので、自分の意思で付けられたその名前、その名前を自分に付けてインターネットで活動する成人男性、という存在から感じ取れる不思議な自意識に興味を持った。そして、その名前でググってみたら大百科がヒットした。そこで知ったのは、現存最古の動画がバンプの「睡眠時間」をギターで弾き語りしてみた動画だということ。

えっ、とか、おっ、とか思った。

この曲、そこまで有名じゃない。2004年7月に発売された「オンリー ロンリー グローリー」というシングルのカップリング曲。バンプは2000年代に、物語性の強さゆえにFLASH動画がたくさん作られてインターネットで有名になったバンドだけれど、睡眠時間ってそういう曲じゃない。多分この曲でFLASH動画が作られたことってない。多分このひと、CDでバンプを聴いてる。インターネットでバンプに出会った世代じゃないかもしれない。インターネットでバンプに出会った世代って出会った当時小学生であるような子がたくさんいてそういう世代は数年私より下になるんだけど、このひと多分そうじゃない。私と同じくらいの年かも。2008年7月に投稿しているってことは多分、同年6月発売のカップリング集『present from you』を聴いたんだろうな、などと、当時の彼のバックボーンを想像した。バックボーンを想像し得た。それは大きかった。

歌声

いざ聴いてみた歌声は、ふわふわしていた。声は重いというか湿度が多いのだけれど実際の重量はそこまででもなく語尾がふわーっと溶けて消えていく感じ。カラオケでも、バンプを唄うひとというのはやっぱりフロントマン藤原基央というひとの影響が大きいのか声を少し掠れさせてぶっきらぼうに歌うイメージが強かったのだけれど、そういうところが全然なかった。「バンプを通過している」「でも歌声が藤と全然違う」というのはとても印象が良かった。ちょっとフェミニンな歌声で、上手いってわけじゃないけど内省的な歌い方が良いなと思った。攻撃性があまりないところ。

バンプのことは、藤原基央というひとが発する苛立ちや苛立ちの奥に潜むイノセントが凄く好きなので掠れた声や吠えるような初期の歌い方が凄く好きなのだけれど、それは藤原基央のそれだからこそ好きなのだ。

そもそも私は音楽というものを好きになったきっかけがバンプで、そこから、それ以上に好きになれる「音楽をやっているひと」を見つけることが出来なかった。藤原基央というカリスマがどんどん自分の中で絶対的なものになっていて、藤原基央を否定するような存在は勿論受け付けないけれど「藤原基央に似ている声のひと」なら藤でいいじゃんと思ってしまうので聞く必要がなくなってしまう。藤原基央に似ていない声で歌われるバンプの曲は、妙に新鮮だった。とはいえ、「睡眠時間」は非常に初期というか「現存最古の動画」だ。趣味で歌ってギター弾いてみました、以上の出来である筈もない。相手は、それから7年以上活動しているひとなのだ。そう思って次に、当時最新の動画だった「ゴーストルール」(DECO*27さん)の歌ってみた動画を聴いた。歌は驚くほど上手くなっていたし音源としての出来も格段に違っていたけれどもっと本質にある、「重たい浮遊感」という印象は変わらなかった。今になって思えば、この2曲というセレクトは彼の特徴・魅力を感じとるベストチョイスではなかったと思う。「フェミニンでちょっと暗くて浮遊感があって陰があるウェットな声質」は今の私が感じる彼の歌が持つ大きな魅力だけれど、「睡眠時間」では発声の拙さによって、「ゴーストルール」ではロックで攻撃的な曲調と当時彼が積極的におし進めていたミックスボイスでの高音によってわりと分かりづらくなっているかな、と思う。それでも、最初から、その魅力を感じた。

彼が投稿した歌の動画300程をすべて聞いたあとでも魅力は「フェミニン」「ウェット」だと思うし、そしてそれらはどの動画から入っても感じ取れる、ということの証明にもなるといいなと思う。もっと言えば、彼を好きな人は何処から入っても好きだろうし苦手だと思ったらずっと苦手なんじゃないかな、と思った。

そして、歌声のクセと、クセがあるけれど綺麗なところは、そのまま名前から受けた印象と繋がっていた。

人気あるのがわかる

「そらる」って、空に「る」をつけたものなのかな?空の動詞化?空が好きなの?

(公式プロフィールによると「空を眺めるのが好きなことから」(「空」を眺め「る」?)らしい)、女性っぽい感じがする、それらの印象と歌声がほぼ一緒だったので驚いた、気もするし驚かなかった気もする。

何となく

「ああこうやって人物像を想像していくうちに想像のイラストを描きたくなる位好きになったりするのね」

ということに納得していっていた気がする。

何となく最初から「これは人気あるな(同時に叩かれてきただろうな)」と分かっていた。この人は人気があるだろうな、というのはもう出会った時から、正確な「人気」を測る基準は知らないけれど、思っていた。生放送で、気だるげで吐息の多い喋りかたをするところを確認していたし、ツイートもひらがなが多くてゆるふわで明確に「そらる」というひとの文体があった。それらが絡み合ってキャラクター性が生まれ、その人が投稿する歌は「この人がこんな歌詞を歌っている」「この人にはこんな感じの歌がやっぱり似合う」といった感想を抱かせるものになっていく。これはアイドル性に近い。

明確に歌が上手い!とか声質が圧倒的に特徴的!とかではないけれど色んな要素が絡み合ってキャラ立ちしていく場合、その「魅力」の言語化の難しさゆえに叩かれるものなのだ。彼が自ら「自分ほど叩かれてきた歌い手もそういないと思う」という、その存在を掴むまでさほど時間はかからなかった。

黒髪色白前髪長い系(藤原基央直系だ)のルックスをしているイメージ(一部顔が隠れた画像は複数確認)、でもあんなにソリッドじゃなくてもっと柔和(これは声のイメージもある)、フェミニン(声のイメージ)、低音イケメンボイスと言われているけれどそんなに低音じゃない、でも優しい感じ、歌い方のくぐもったところなどナルシストっぽく取られそうな要素もあるけれどそれは人気にも叩きにも両方に転ぶだろう……

ちょっと調べているだけであっという間に時が流れ、そうしているうちに「誰も知らないハッピーエンド 歌ってみた(そらる×まふまふ)」(40mpさん)が投稿されたのだったと思う。彼は当時、1月にまふまふさんという、2014年から共に活動していた歌い手さんと「After theRain」と名付けられたユニットを正式に組んだばかりで、そのファーストアルバムを制作している期間でもあったのだ。

最愛のバンドの20周年記念ライブに立ち会えなかった憤り、悲しみ、やるせなさは、そのまま、「これから走り出す」ユニットへの関心に向かっていった。